中間省略登記について(参考資料)

 平成17年3月7日より施行された改正不動産登記法により事実上、中間省略登記ができなくなった。しかし不動産業界をはじめ産業界の強い要望もあってか内閣府規制改革・民間開放推進会議は法務省との折衝を重ね06年12月25日の最終答申で「第三者のためにする契約」というスキームを導入することで中間省略登記と同様の結果を適法に実現することを可能とし、翌26日の閣議で、最終答申の内容を全省庁が最大限尊重することを決定。年明けに法務省から周知文書が出される見通しとなった。

本コラムでは、従来まで利用されていた中間省略登記が改正不動産登記法でなぜできなくなったのか、そして今回の第三者のためにする契約の導入で中間省略登記が事実上可能となるプロセスに言及する。

中間省略登記とは、例えばA→Bへの売買により所有権を取得したBがB→Cへの売買等をおこなった場合、A→B→Cと売買等が行われたことになるが中間のBを経由することなく、A→Cに直接所有権移転登記等を行うことをいう。これは、不動産流通市場で転売等による利ざやを狙う物件卸業者、バリューアップ型売買のプロ業者等を中心に登録免許税や不動産取得税等の経費をスルーするための登記手法として利用されてきた。なかにはエンドの買主の希望により配偶者への贈与を前提に夫婦の名義で登記する例もあり不動産取引においてかなり広範に活用されていたのが実態である。
ちなみに全宅連の不動産売買契約書のなかに「売主は、売買代金全額の受領と同時に、買主または買主が指定するものの名義にするために、本物件の所有権移転登記をしなければならない。以下略」という条項があるのは、上記のようなケースを想定している。

最高裁判例(昭和40年9月)は、A→B→Cと売買が行われたケースで登記名義人A,、中間者Bの同意がある場合に限りA→Cへの中間省略登記が認められると判示。現在の所有権者から登記名義人に対する直接の登記請求権を認定した近年の判例は中間者の同意がなくても中間者の保護に値する法的利益を損なうことがなければ中間省略登記を認めるまでに至っている。とはいえ「結果的に中間者等の同意があれば判決で中間省略登記が可能となったとしてもこのことをもって中間省略の登記申請ができるとしたわけではない」と反論するのが登記行政現場の見解である。
法務省は、判決による中間省略登記申請については例外的に受理している。つまり個別の裁判で判決が出れば、登記官が中間省略であることを知っても可能としている。中間省略登記ができないのは、通常の登記申請の場合である。
このように通常の登記申請の場合、中間省略をめぐる判例の時系列的方向性は、登記の正確性を担ってきた登記行政の間でネジレを生じていた。

以上は法律論の建前の話で、実務では、不動産登記法改正前は、「申請書副本」により事実上中間省略登記ができてきた。改正前も物権変動の原因となる法律事実の成立を証する書面である「登記原因を証する書面」の添付が要求されてはいるが、必須添付書類ではなくこれに代わる「申請書副本」(登記申請書の写し)というBの登場しない登記義務者A、登記権利者Bと記載された添付書面で登記申請がなされると登記申請と申請書副本で書面上は齟齬を起こさないため登記申請は受理されていた。実際の売買契約書等が「登記原因を証する書面」として登記申請に使われなかったのは、通常の売買契約書では、所有権移転の時期が必ずしも明確でないとか、当該契約書に記載されている売買代金や保証人氏名などの情報が明らかになってしまうからといわれている。

不動産登記法が改正され、「登記原因証明情報」の提供が必要的制度となる関係から中間省略登記はができなくなった。 「登記原因証明情報」とは、登記の原因となった事実又は行為及びこれに基づき現に権利変動が生じたことを証する情報で例えば,売買による所有権の移転の登記の場合には、契約の当事者、日時、対象物件のほか、売買契約の存在と当該売買契約に基づき所有権が移転したことを売主が確認した書面又は情報が登記原因証明情報に該当する。そしてこの情報は、法務局に保管され、利害関係人の閲覧に供されることになっている。
例えばA→B→Cと売買が行われると登記原因証明情報は、A→Bの売買契約書とB→Cの売買契約書が存在するはずである。そしてこの登記原因証明情報で登記を申請するなら当然にA→BとB→Cの2件の所有権移転登記となり、A→Cへの中間省略登記は却下されることになる。

どうしても中間省略を実行したいためA→Cという売買があった事にする「登記原因証明情報」の作成を司法書士に依頼すると実体関係と一致しない虚偽の記載をした書面・情報となるためこのような依頼に応じる司法書士を探すのは難しいだろう。現に司法書士の団体である日本司法書士会連合会は、中間省略登記に否定的だ。「司法書士が中間省略登記であることを認識しつつ、AC間に直接物権変動が存在するがごとき登記証明情報を作成すること及びその旨の登記を申請することは、司法書士の職責並びに倫理に反し、厳に避けなければならない。」(H17.3.9日司蓮発1467号通知)
しかも司法書士の大半は中間省略登記に倫理的拒絶感が強いようだ。その論拠は「不動産登記法は、物権変動過程をあるがままに登記で公示させることで、権原調査を容易にするため法的安定を保ち、取引の安全を確保するための法律であるから中間省略登記は認めるべきでない」といったものだ。
一方、当事者が了解し、敢えて自己名義に登記しないリスクを冒して中間省略登記を選択しているのに排除するという強制をするのはいかがなものかという見解もある。不動産登記を依頼する側の不動産業界は、当然ながら中間省略登記を強く支持している。登録免許税や不動産取得税を節税でき、引いてはエンドユーザーである最終買主の購入価格に税金分のシワ寄せがいかないし、エンドユーザーに負担が転嫁されないと不動産流通市場も活性化するというのがその論拠である。
このように依頼する側の不動産業界をはじめとする産業界と不動産登記を実行する行政や現場との間に中間省略登記の可否を巡るスタンスにズレがあり、中間省略登記に対する政府の明確な指針もなく混迷していた。

06年の年末になって中間省略をめぐる不動産登記に大きな変化があった。法務省と折衝を続けてきた内閣府規制改革・民間開放推進会議は、不動産登記法改正後、中間省略登記の運用が不明確なため混乱が生じていたが、「第三者のためにする契約」で、登記可能であることを周知徹底させ、実質的な問題解決を図る方針を固めた。


総理大臣の諮問機関である規制改革・民間開放推進会議は12月25日の最終答申で、住宅・土地の取引費用の低減ニーズに応え、従来行われてきた中間省略登記と実質的に同様の不動産登記の形態を実現させることを掲げ、「第三者のためにする契約」でそのような登記ができることを06年度中に周知すべきであると答申した。翌26日の閣議で、最終答申の内容を全省庁が最大限尊重することを決定した。年明けに法務省から周知文書が出される見通し。
 これにより不動産の売買契約において、特約の付け方次第で、売主の前の所有者から権利を直接取得する方式での登記が可能になり、登記1回分の費用を節約できる。
最終取得者は、基本的に売主が登記を省略しないことを希望できるが、上記の方法を受け入れることを条件にして、売主が登記を省略することで節減される費用について、値引き交渉をするチャンスができる。分譲住宅の土地部分や、リフォームしたマンションの転売で特に有効だ。
国土交通省もこの流れを受け、宅建業者が関わる取引で、A→B→Cと不動産の売買を2回し、中間のBの登記を省略させるために、「第三者のためにする契約」を用いて、便宜的に所有権を中間のBに一度も移さずに、Aから直接Cへ移転させる取引を認める方針だ。
実際の取引では、第1の売買で、「買主の指定する者に所有権を移転する旨」の特約を付ける。買主に自動的に所有権が移転しないよう、「買主への移転は自らを指定する明示の意思表示があったとき」とする特約も付ける(所有権留保特約)。また、第2の売買では、最終取得者である買主の了解を前提に、売主の指定した者から民法の「第三者の弁済」として買主に所有権を移転する。
(住宅新報社 06年12月26日)

わが国の民法は、契約自由が認められる近代法の特質として第三者のためにする契約の有効性を認めている。第三者のためにする契約は要約者、諾約者、受益者の3者構成となる。この契約から生じる効力は第三者である受益者が諾約者に対して債権を取得することである。言い換えると通常の契約では一方の当事者は相手方に対して債務を負担するのが普通だが、当該債務を第三者に対して負担する特約がなされる。
このスキームを不動産売買の例でみると次のような内容、プロセスとなる。

売主A、中間者B、買主Cとする。まずAB間で所有権移転・引渡しをBが指定する第三者Cに対して行うことを目的とする『第三者のためにする契約』を締結。またBが売買代金全額の支払いを行った後、Bに自動的に所有権が移転しないよう「買主への移転は自らを指定する明示の意思表示があったとき」とする特約を付ける(所有権留保特約)。
一方、BC間でA所有不動産をCに売却する売買契約を締結し、AがCに直接に所有権移転・引渡しを行う特約を行う。
上記によりCがBに売買代金全額の支払いをなしたときA→Cの所有権移転が完了する。その結果、中間省略登記と同様の効果が結果的に発生する。

このスキームは、法務省が中間省略登記を受理する代わりに、内閣府に対し対案として示したもので実態の権利変動を裏付ける契約が個々に存在することで権原調査も容易となり登記の正確性が保てるし、内閣府も規制緩和の一環である取引費用の低減ニーズに応え、住宅・土地市場の活性化を達成できるというものだ。